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「…はぁ…はぁ…」
藤村は駅まで走っていた。
美雪の傘を持って。
最後に千代子は、一万円札を出してきて、お釣りを渡すのに時間がかかってしまった。
もう直ぐ目の前に、駅が見えて来た時に軽トラが横に停まった。
「……はぁ…」
見覚えのある、配達の軽トラを横目で見ると、藤村は場が悪そうに顔をしかめた。
案の定、ウィーンと窓が開き佳奈の顔が見えてきた。
「……何してんの?美雪ちゃんなら電車に乗って帰ってたわよっ!」
「…そうか…」
藤村は持っていた傘を見つめ呟いた。
「……美雪ちゃん、凄く不安がってた。心配させちゃ駄目でしょ?理由があるんなら、ちゃんと直接教えてあげなさいよ!」
凄い剣幕で、佳奈は容赦なく言ってきた。
「…わかってるよ…」
「わかってない!美雪ちゃんの気持ち、わかってないから追っかける羽目になるんでしょ!?」
「………」
ここまで藤村に言えるのは、小さい頃から知っている佳奈だけだ。
さすがに、藤村も何も言い返せれない。
「……美雪ちゃんも、由樹の事や受験の事で悩んでいるのよ?ただでさえ、ナイーブな時期に何してんのよ!美雪ちゃんとの付き合いが本気じゃないんなら、別れなさい」
「…あぁ…わかってる…」
佳奈は藤村の表情を見て、言うだけ言うと車を走らせ去って行く。
それ以上言う必要がないからだ。
藤村は、ちゃんと真剣な顔をしていた。
「……」
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