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藤村は部屋で、携帯電話を見つめていた。
先ほど、千代子との会話を思い出す。
『由樹、正気なの!?生徒と付き合っているなんて…教師という立場の前に、あなたは大人なのよ?社会人なのよ?高校生に手を出すだなんて、どうかしてるわ』
落ち着いて話を聞いていた千代子だったが、藤村が話していく内に怒りを露わにした。
「…どうかしてるのは承知だ。千代子にバラしてまで、俺はアイツに夢中なんだ。」
『………。そう。わかった。由樹は少し変わったね。でも、私は二人を応援する事はできないわ』
「……わかってる」
そう言って、電話を切ったのにまだ、耳の中が千代子の声が残っていた。
本当は、千代子に認めてもらいたかったんだ。
「………」
藤村は眺めていた携帯電話を、お尻のポケットにねじ込むと部屋から出て、ある場所へ向かった。
◇◇◇
「…ん…王子…」
机に向かい、勉強をしていた美雪は、いつの間にか眠っていた。
ノートには、気づかぬ内に描いたイラストが、中途半端に片隅に残っている。
ヴヴヴヴッと、机に置いてあった携帯が震えた。
「……ん?あれ?私、寝ちゃってた…?」
口元のよだれを拭い、美雪は背伸びした。
携帯電話を開くと、藤村の着信で電話がかかっていた。
「…!…由樹だ」
直ぐに電話をかけた。
今、かかっていたから絶対に出るはずだ。
『……美雪か?』
最初にもしもしとか言わない、直接的な言い方の独特な藤村の声に、美雪の胸がキュンとなる。
「…うん…。」
『少しだけ、窓から顔を出してくれないか?』
「えっ…?…由樹、まさか外にいるの!?」
美雪はそう言いながら、カーテンを開け窓も開けた。
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