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「…由樹…」
窓を開け、向かいの道路を見下ろした。
藤村の車が見え、その側に先生が携帯を耳に当て立っていた。
『……美雪、逢いたい。少し、俺に時間をくれないか?』
あんなにも不安だった気持ちが、嘘のようにその一言で不思議と消えていく。
自分だけじゃなかったんだ…
逢いたいと思う気持ちは…
「…まっ…待って!今、そっち行くから」
美雪はベッドから下り、部屋の時計を見た。
丁度、二十一時を過ぎた所だった。
母親は風呂に入っている時間だし、父親は呑みに行っていなかった。
階段を下り、玄関まで音をたてないように歩く。
「…美雪?どこ行くの?」
ドキッ
振り返ると、頭にタオルを巻いた母親が立っていた。風呂から上がったのだろう。
「…えっ…と…、ちょっとコンビニまで…」
「………」
怒られるだろうか?
美雪はそろ~と母親の顔色を伺った。
「…じゃあ、ママにアイス買ってきてぇ!」
娘も娘なら、親も親だ。
この人が母親で良かったと、美雪は心から思った。
「うん!わかったよ」
手を振り、美雪は玄関のドアを開けた。
門を開け、一歩道路に出ると少し離れた場所に、藤村の車が停まっていた。
新学期に入り、藤村と逢う時間が減り、こうして逢うのは何だか久しぶりで緊張してきた。
運転席から窓を覗くと、藤村は助手席に乗るよう合図した。
(うあー!ドキドキする~!)
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