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そっと大好きな顔が近づいてきた。
いつまで経っても、この瞬間が一番緊張する。
美雪はそっと目を閉じた。
藤村の煙草の香りが混じった息が、鼻先を掠めた。
「…ん…」
唇は少しの間、重なっていただけの短いキスだったが、離れてもまだ感触が残っている。
そして、また重なりキスは深さを増していく。
息絶え絶えで、ようやく離してくれた藤村に、美雪は可愛く睨んだ。
そんな美雪にお構いなしに、藤村は美雪の頭を撫でた。
「…今日、千代子と一緒に居たこと…何も聞かないのか?」
「気になるけど、由樹はそんなんじゃないんでしょ?千代子さんの事、吹っ切ったって言ってたし…」
「……あぁ。今は、同じ職場の同僚だ。千代子に仕事を教えてくれって言われて、手伝ってやったんだ」
「……」
「…美雪?」
急に黙り込み、俯く美雪に藤村が気づいた。
「…その、【千代子】ってやめて。何だか、付き合ってるみたい…」
美雪の気持ちに察して、藤村は嬉しそうに笑った。
「嫉妬してんのか?」
「…当たり前でしょ!?」
「本屋でも、学校でも逢えないって言ったのは、ち…大村がつきまとっていたからだ。美雪との関係がバレそうだったから」
「……うん。わかってるよ」
「でも、こうして逢えただろ?」
「……うん。」
コツンと藤村は美雪のおでこに、自分のおでこをくっつけた。
そして、また唇が引き寄せられるように重なった。
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