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放課後。
帰りのHRが終わろうとしていた。
「帰る前に、現国のノート出していって下さい」
大好きな人が教壇に立ち、生徒達をまとめている。
最初は変な感じがしたが、今は慣れてしまった。
早いもので、もう一学期は残り一カ月となった。
HRが終わり、生徒達がまばらに立ち上がり、教壇にいる由樹へノートを出している。
美雪も、机の中から現国のノートを取り出し立ち上がった。
由樹にノートを提出した生徒が教室から出て行く。
すぐ側に由樹がいると思うと、嬉しくなる。
もっと近くに行きたい。けど、教壇が邪魔している。
ノートを出す間際、一瞬だけ由樹と手が重なり、胸がドキッとした。
周りに生徒がいなく、唯一居るのは亜由美だ。
由樹と目線が合う。
眼鏡の奥の瞳が、一瞬違う光を放つ。
たったそれだけなのに、美雪は嬉しくてすぐにでも由樹に飛びつきたい気分になる。
「藤村せんせ~!」
そんな一瞬の幸せも、あっという間に崩れ落ちていく。
「…はい?」
「あのさ~、ここって…」
同じクラスの生徒が質問をしに由樹に近づいてきた。
そうだった…。
美雪は、咄嗟に俯いた。
こんな幸せだと思っている、締まらない顔を他の生徒に見られたりでもしたら…
人に敏感になってしまいそうだ。
美雪は、慌てて自分の席へと戻っていく。
いつもと少し違う美雪の行動に、由樹が気づいたが生徒と話していて聞くに聞けない。
「……美雪?」
由樹だけじゃない。亜由美も、そんな美雪に気づいたのだった。
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