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始業式が終わり、生徒達は半日で帰っていく。
午後から、授業がなくても教師はいろいろ忙しくて帰りは夜になる。
仕事が終わり、吸う暇がなかった煙草をくわえ、藤村は家へと向かった。
腕時計で時間を確認すると、十九時を過ぎた所だった。
商店街が並ぶ道を歩いていると、脳天気な声が聞こえた。
「うわぁ~!嬉しい!!安くしてくれるの?」
「おうっ!持っていきなっ。もう、店じまいだ」
八百屋の親父と店の前で、美雪が買い物袋をぶら下げ話していた。
「……何してんだ?」
受験生なのに、美雪が買い物しているのには呆れた。
他の生徒は受験に向け、猛勉強しているというのに。
「本当に~?キャベツ一玉九十八円にしてくれるの?」
目を輝かせ、親父と話している美雪。
藤村の存在に気づかない。
美雪はキャベツに目が釘付けになっているが、八百屋の親父は美雪に鼻の下を伸ばしている。
「…こんなに沢山いらねぇよ!」
美雪の側まで行き、持っていたキャベツを元の位置に戻した。
「Σあぁっ…!…って由樹、お帰りなさい」
「おっ!由樹くん、今、帰りかい?」
「……帰るぞ」
小さい頃から、この町で育った藤村にはこの位の無視は許される。美雪の手首を引っ張り、スタスタと歩く藤村。
呑気に美雪は親父さんに手を振っていた。
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