150人が本棚に入れています
本棚に追加
/112ページ
静かになった病室で、戒は支度を済ませていた。
病院側から退院を言い渡されたのが、来週だったが早く出て行きたい。
「済んだのか?」
「うん」
迎えに来てくれた綾に笑顔で答え、ボストンバックを持つ。
「ちょっと話しないか?」
「良いけど……」
病室を出ようとした戒を制止し、綾は戒の目の前に立った。
「俺の事、軽蔑するか?」
「…………しないよ」
綾の言いたい事が大ざっぱすぎて的を得ないが、戒には大体予想出来る。
幻死団として動いていた事、自分の父親が元凶だという事。それが全てだろう。
「俺は…………」
「何?」
俯いた綾は、髪に隠れて表情が見えない。
何かを探るように言葉を選んでいる。
「………好きだ」
「………何が?」
ゆっくり顔を上げ、水色と紫のオッドアイが戒を捕らえた。
そして、蒼と碧のオッドアイが綾を捕らえる。
お互いに見つめ合い、柔らかな日差しが二人を包み込んだ。
「お前に誓う」
「……………」
「俺の全てを賭けてお前を守ると……」
「俺はそんな弱い?」
全てを投げ出してまで守ると綾は言い、戒は嬉しくも何ともない。
自分を守る存在は要らない、自分が守る存在は必要。
全ては自分の為に、動く原動力として望んできた。
最初のコメントを投稿しよう!