~プロローグ~

2/2
150人が本棚に入れています
本棚に追加
/112ページ
生まれて何度目かの春 鮮やかな花が競い合うように咲き乱れ 視界を色鮮やかに覆う   俺は、また此処に来ていた。 あれから3年。 短いようで長い、長いようで短い年月。   「戒君?」 「あっ!?すみません…」   不意に呼ばれ、俺は感傷に浸っていた思考を呼び戻されてしまう。   「もう3年になるんですね……」 「えぇ」 「大丈夫ですか?」 「やだなぁ、あの頃と違いますよ!」 「そうでしたね」   心配そうに見つめられ、俺は笑顔で返す。   あの頃と違う。 今の俺は、もう…   「ありがとう」   何度この言葉を繰り返しただろう? 時には泣きながら、何度も何度も『ありがとう』と……   「さて、行きますか?」 「はいッ!」   手にしていた花束をこの地に置き、再び歩き出す。 もう悲しみは振り返らない。 笑顔でいられるから……   「ありがとう」   忌まわしい、あの事件に終止符を打つために。 俺は、また歩き出す。 さよならは言わない。 ありがとうで十分だろ?   悲しみと怒りが入り混じる、あの事件から3年。 俺は心から笑える。 今だから……   「早くしないと遅れますよ?」 「はーいッ!」   3年前、俺は死んでいたのかも知れない。 あの事件のせいで………      
/112ページ

最初のコメントを投稿しよう!