土曜日。

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日が沈む寸前だから、今は6時位だろうか。 俺は川べりの土手でトランペットを吹いている。 楽器は良い。俺が望む音をその通りにつむいでくれる。 奏でている曲は俺が気に入っている曲。 美しく、少し哀しいメロディー。 静かに、だが高らかに俺は吹き続ける。 曲が終盤にさしかかった時、後ろから聴き慣れた声が聞こえた。 「あ!奏(かなで)!やっぱり!」 俺は吹き続ける。 「無視しないでよぅ!」 俺は吹き続ける。 「ねえねえ!聞いてる!?」 俺は吹き続ける。 「う…うゆゆぅ…」 俺は吹き続ける。 「ぐすん…」 吹き終わった。 「うわぁぁん!無視しないでよぉぉ!」 「おま…何回も演奏してる時は話しかけるなって言ったよな!?」 「うゆゆ…だってぇ…」 半泣きのこいつはミュー。俺の幼なじ…腐れ縁だ。 「幼なじみだよぅ!」部活は合唱部。 ミューは身長は160cm位と平均的だが、顔がとにかく小さい。おまけにとても可愛く、足腰も細い。(胸も 「なんか酷い事思われた気がする!」 ランドセルでも背負わせたら小学生と間違えそうな……ロリ系? それがミューこと深雪(みゆ)だ。 「奏ってば!なにぼぅーとしてるの!帰るよ!」 「おう。」 楽器を片付けようとしたが、ふとミューの方を見る。 ミューは小首を傾げて俺を見つめる。 「……なあ、歌ってくれないか。」 理由なんてない。ただ、ミューの歌声を時々無性に聴きたくなる。それだけ。 「うゆゆ…良いけど…人も通るし恥ずかしいよぉ…」 「じゃー俺がラッパで伴奏つけてやるから。それで良いだろ?」 「うゆゆ…… じゃあ、歌うよ?」 そしてミューは歌い始める。 少し昔に流行ったラブ・ソング。 俺は頭の中で曲の伴奏を思い出しながらトランペットにのせ、音にする。 ミューの甘い、甘い透き通る声が日のくれかけた空に響く。 ミューのストレートの髪を見ながら、温かい気持ちになっていくのを感じる。 2つの音が奏でるハーモニー。 歌声とトランペットが交差し、絡みあい、消えていく。 土手を通りがかる人が皆足を止め、こちらを見る。 「きれい…」 誰かがそう呟くのが聞こえた。 「…ふぅ。疲れたぁ…」 歌い終わったミューはそういいつつも楽しんだようだ。 満面の笑顔に俺は癒される。
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