過去

3/7
前へ
/10ページ
次へ
姫・・・。 哀しみに満ちた瞳。 姫と男が初めてあったあの時、姫の背丈は男の腰ほどもなく、幾重にも重ねた襟元に、小さいながらも気品を纏って居た。 『あの幼き姫が祝言とは。人間の月日は光のようじゃ』 哀しみをたたえる美しい顔が、ふと笑みにかわる。 『ほんに、わたくしの月日は光のようでございますね。』 姫は涙を優雅に拭い、月を仰ぎ見た。 『時の流れは変えられぬもの。姫は姫の時を歩むがいい。』 牙様・・・ 感情を表さず語る男を姫は牙と呼んだ。 『牙様・・・。今宵の別れに髪を解かせてはいただけませぬか?』 『姫の好きにするがいい。』 牙は月明かりに光る姫の涙を見つめながら答えた。 『はい。』 牙様・・・。 今宵だけは、藤鶴と呼んでくださいませ。 藤鶴姫は静かに牙の後ろに回り、ゆっくりと牙の髪を結う紐に手をかけた。 、
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

120人が本棚に入れています
本棚に追加