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姫・・・。
哀しみに満ちた瞳。
姫と男が初めてあったあの時、姫の背丈は男の腰ほどもなく、幾重にも重ねた襟元に、小さいながらも気品を纏って居た。
『あの幼き姫が祝言とは。人間の月日は光のようじゃ』
哀しみをたたえる美しい顔が、ふと笑みにかわる。
『ほんに、わたくしの月日は光のようでございますね。』
姫は涙を優雅に拭い、月を仰ぎ見た。
『時の流れは変えられぬもの。姫は姫の時を歩むがいい。』
牙様・・・
感情を表さず語る男を姫は牙と呼んだ。
『牙様・・・。今宵の別れに髪を解かせてはいただけませぬか?』
『姫の好きにするがいい。』
牙は月明かりに光る姫の涙を見つめながら答えた。
『はい。』
牙様・・・。
今宵だけは、藤鶴と呼んでくださいませ。
藤鶴姫は静かに牙の後ろに回り、ゆっくりと牙の髪を結う紐に手をかけた。
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