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上げていた髪が、音もなく風に乗る。
藤鶴によって下ろされた髪は、月明かりの為か、時折キラキラと銀に輝いた。
『美しい御髪ですこと・・・』
藤鶴は牙の髪に、幾度か指を透すと、自身の髪に刺すツゲの櫛を手にとり、ゆっくりと牙の髪に滑らせた。
『藤鶴。』
『・・・はい。』
呼んだきり、次の言葉を紡がない牙。
長い沈黙。
藤鶴は次を催促するでもなく、呼ばれた名の音を心に刻みつける。
『・・・幸多からん事を祈っている。』
ボソッと牙は囁いた。
『牙様・・・。嬉しゅう御座います。』
一瞬、手を止め、藤鶴は震え出した手でまた髪をとく。
また訪れる沈黙に、二人はしばらく身を委ねた。
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