はつこいのおと

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それではいよいよ♪と弟を伴い水の中へ。 やっべ、ボクもつい飛び込み気味に入っちゃった。てへっ。 おお、監視員のお姉さんが睨んでいる。おお。 改めて身体を水中に沈める。心地良い。身体が冷やされるだけではない、身震いする感覚。引力の軽い世界。そのほとんどが水分で出来ている人体が、同化して融けていくようだ。楽しい、とも違う、嬉しい、とも違う、不思議な感覚。その意識を全て預けて、眠ってしまいたい。 …と、ここで突然ボクの意識は覚醒した。朝の目覚めから揺り起こされる様に。横っ腹に衝撃が走ったのだ。何すんだこのヤロウ、悪友がボクに放った蹴りだった。 お返しにと悪友の首にしがみついて羽交い締めにする。弟を呼んで攻撃させる。へっへっへ。へっへっへ♪ あぁ楽しいっ♪へっへっへ♪ …ボクの気持ちがだんだんヤバい方向へ進んでいる中、悪友はスルリとボクの腕を抜け肘を打ち付け逃れた。さすがに運動神経が良い、直ぐに距離を取るとむこう端に向かって泳ぎだした。 ボクだって負けちゃいないぞ。運動神経は悪い方だけど、泳ぎだけは得意なんだ。弟にVサインを決め一気に泳ぎ出す。大丈夫、この距離なら追い付ける。そして、追い越せるさ。  クロール。右の腕で水をかきあげ、左の腕を鋭利なナイフの様に水面に差し込む。両足は付け根から律動させる。水泳の時間、先生からベタ誉めされたキレイなフォームなのだ。 悪友はボクとの距離に気付いたらしい。優雅に平泳ぎで進んでいたのを慌ててクロールに切り替える。だが遅いゼ?確かに平泳ぎじゃあ悪友にはかなわないけれど、クロールならボクの方が速い。 待っていろ、すぐに追い付いてやる♪ 水をかく。水をかく。 身体を捩る。身体を捩る。 足で漕ぐ。足で漕ぐ。 徐々に熱を帯びてくる肢体。水中なのに、汗が湧きだしてくるのがわかる。 水をはしる熱源体。 熱源体と化したボクは悪友を捉えた。左のかき腕で背中を叩いてやった後、そのまま泳ぎ進んだ。止まらない。止まりたくない。それでもゴールはやって来てしまった。惚ける意識。悪友ももう少しで到着する。無我夢中で泳いだエネルギーは、ボクの体に急激に襲いかかった。けれど心地良いダルさ。  夏は嫌いだけど、こうして泳げる事を思えば、ちょっと位好きになってやってもいいかな。
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