3人が本棚に入れています
本棚に追加
首までつかる深いプールは悪友のお気に召したようだ。潜っては浮かびボクの足を取っては沈め、やりたい放題だ。
ふふん、やってやろうじゃないか?あぁん?
ヒートアップしたボク達はプロレス技をかけあいまくった。
悪友は最近見たワールドプロレスが大のお気に入りなのだ。当然ボクも付き合って見ているわけだから、パフォーマンスを真似ながらお互いに技の応酬を繰り広げる。
やっべ、楽しい。
調子にノってると監視員さんに注意された。ぐぅ、しまった。
けれど一度注意されて大人しくする程悪友は大人ではない。監視員さんの視界から距離を取って再び再開。うん、ボクも同罪なんだけどね。
午後になって更に人は混んで来ていたけれど、こちらのプールはまだ余裕があった。だからか、悪友は遂に投げ技まで繰り出してくる。底まで深いから、ケガの心配はないけれど、投げこまれた時の水の圧力がスゴい。悪友は投げる事の快感に目覚めたのか、何度も抱き抱えてはボクを投げる。
おいおいちょっと。
そうして投げこまれた何度目かに、
『痛っ!』
という声と共に背中に何かがぶつかる感触がした。慌てて振り替えると、青のワンピースを着た女の子がそこにいた。
短く整えた髪が水に濡れて額に貼りついている。同い年位かな?
あ、二重まぶた。
なんて呆然としていると、その女の子が声を発した。
「危ないなぁもう。気をつけなよ?」
軽いソプラノ。耳障りが心地良い。
「聞いてる?あ、ていうかキミ小学生?ダメじゃん、ここ、大人用のプールだよ?」
注意するその顔はけれどにこやかで、優しい目でボクを見てる。ごめんなさい、と素直にあやまると、彼女は更に笑顔で応えてくれた。
「内緒にしといてあげるけど、周りの人の迷惑になるから、あんまり暴れちゃダメだよ?」
そう言い残し、女の子はプールサイドに向かって泳ぎだした。陽を浴びた肢体が、水の上を疾走する。
モヤモヤする。
なんだろう、悔しい?見た事のないキレイなフォームをしている。モヤモヤするよ。
なんなんだよ。
彼女を見送ってしばらくして、悪友が肩を叩いた。
「もう行った?」
自分だけ逃げてたなコイツ…。
最初のコメントを投稿しよう!