はつこいのおと

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お詫び代わりにと一度だけ悪友を投げた後、起きだして来た弟がボクたちを呼びに来た。 弟はさすがにこっちには入れないので、再び元のプールへ戻る。よし、特訓開始だ。 嬉しそうにボクのコーチを受ける弟。楽しそうに優雅に泳ぐ悪友。 ボクはといえば、さっきの女の子の姿を思い返していた。 短い髪。 二重まぶた。 柔らかな笑顔。 軽い声音。 優しげな瞳。 そして美しいフォーム。 ボクの中のモヤモヤは、徐々に薄れつつあるけれど、決して消えない。余りにも鮮明な映像。音。 いつの間にか、太陽は傾き始めていた。 もうすぐ帰る時間だ。喉の渇きを訴える悪友に付き合って売店に向かう事にした。売店は、プールを囲う石垣の向こうにある。夕方の気持ち良い涼風を受けながら、ボクたちは歩いた。その気持ち良さを共有していたのか、ボクも悪友も黙って歩いた。 今日は楽しかったな。 売店で、ボクはオレンジ、悪友はコーラを選んだ。果実の甘さが喉を潤す。少し休んで行こうと、悪友はボクを石垣に誘った。 冷えた体に伝わる石の熱が心地良い。エアコンでは決して味わえない自然の心地良さ。人には作りえない自然の安らぎだ。 ああ、最高だね。 『カランっ』 ふいに、聞こえた。 ガラスの弾き合う音。 こんな場所では当たり前に聞こえる音を、ボクは無意識に意識した。そして、振り返った。 それは、ラムネのビンの生み出す音だった。石垣の上に立って、ラムネを飲む姿。夕陽を浴びて、オレンジに光るシルエット。 さっきの女の子が、そこにいた。
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