3人が本棚に入れています
本棚に追加
お詫び代わりにと一度だけ悪友を投げた後、起きだして来た弟がボクたちを呼びに来た。
弟はさすがにこっちには入れないので、再び元のプールへ戻る。よし、特訓開始だ。
嬉しそうにボクのコーチを受ける弟。楽しそうに優雅に泳ぐ悪友。
ボクはといえば、さっきの女の子の姿を思い返していた。
短い髪。
二重まぶた。
柔らかな笑顔。
軽い声音。
優しげな瞳。
そして美しいフォーム。
ボクの中のモヤモヤは、徐々に薄れつつあるけれど、決して消えない。余りにも鮮明な映像。音。
いつの間にか、太陽は傾き始めていた。
もうすぐ帰る時間だ。喉の渇きを訴える悪友に付き合って売店に向かう事にした。売店は、プールを囲う石垣の向こうにある。夕方の気持ち良い涼風を受けながら、ボクたちは歩いた。その気持ち良さを共有していたのか、ボクも悪友も黙って歩いた。
今日は楽しかったな。
売店で、ボクはオレンジ、悪友はコーラを選んだ。果実の甘さが喉を潤す。少し休んで行こうと、悪友はボクを石垣に誘った。
冷えた体に伝わる石の熱が心地良い。エアコンでは決して味わえない自然の心地良さ。人には作りえない自然の安らぎだ。
ああ、最高だね。
『カランっ』
ふいに、聞こえた。
ガラスの弾き合う音。
こんな場所では当たり前に聞こえる音を、ボクは無意識に意識した。そして、振り返った。
それは、ラムネのビンの生み出す音だった。石垣の上に立って、ラムネを飲む姿。夕陽を浴びて、オレンジに光るシルエット。
さっきの女の子が、そこにいた。
最初のコメントを投稿しよう!