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   「おめでとう、諸君!」 重圧のある声が教室内に響いた。 たくましい体を無理矢理スーツに押し込んだ男性教師のものだ。 聞き苦しいとまではいかないが、この教師の声を聞いて夢うつつから脱しない輩などいない。 下手な目覚ましよりもよほど眠気を吹き飛ばすその声に、実際に舟をこいでいた直井は眠気を木っ端微塵に吹き飛ばされて顔を上げた。 長い始業式が終わり、新たな担任が教室に顔を出すまでの数分を微睡むつもりだったが、どうやら担任が教壇から第一声を放つまでうとうとしていたらしい。 「君達は今日から三年生だ。この日を待ちに待った生徒も少なくないと思う。」 大熊 大悟。 大を二つも名に持つその教師は、まさしく熊のようだ。 担当教科は体育で、彼の授業は真冬だろうが真夏よりも暑苦しいと生徒達はもっぱら嘆いている。 何より顔が厚い。厚すぎる。 眉毛は親指よりも太いし、そんな顔で白い歯を覗かせながら爽やか教師を気取るのだからやるせない。 これは外れを引いたと、直井は大熊を見た瞬間に確信した。 「高校生活も残り一年だね。余りに短い時間だけど、各自、悔いのないようにね。」 常々直井は思うのだが、この教師が語尾に"ね"を付けるのは本当にいただけない。 熊はデフォルメされると愛嬌があるが、この教師はデフォルメされても間違いなく暑苦しい。 大を兼ねすぎた男は岩よりも堅い言語をたしなむべきではなかろうか。
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