始まり

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ツアー移動の煩いバスの中と違い、みんなやたらと静かだった 眠っているようにも見えるけど、きっとみんな寝てはいない 葵はたまに華と話をして、俺は冴と話をした どうやら冴は本当に突然すぎて何が何だかわからないみたい そりゃそうだよね 何もわからないまま突然和海が消えたら俺だって…… きっと部屋を破壊してしまう 冴はその辺俺と違って大人だと思った よくわからないけどね、 何となくそう思ったんだ この不自然な空間が嫌だった いつも葵の隣には華 俺の隣には和海 そして冴の隣には世話を焼く湊が居るのが当たり前だと思っていたから 当たり前ってなんだろう 俺はこのメンバーとずっとDAHLIAで活動して行くのが当たり前だと思っていた だけどその当たり前も今は当たり前じゃなくなってしまった 後悔とかじゃないんだ だけど、本当のところ 俺もどうしていいのかわからない リーダーなのに最低 もし、和海とギターのどちらかを選べと言われたら俺は…… 今は活動停止なだけでみんな湊が戻る事を信じている もちろん俺もね でも、どちらかを選べと言われたら 俺はギターを捨てる事が出来るのだろうか? そんな事ばかりしか頭に浮かばないのはやはり湊を連れ戻す自信がないからなのかな……… ダメダメ! まだ湊にも会っていないのにそんな事を考えるのはやめよう その時、冴がポツリと言った 「俺……何にも湊の事を知らなかったし、湊の小さな変化にも気付いてやれなかった」 「冴のせいじゃないよ……誰にでも話せない事だってあるよ……もちろん恋人にもね……だけど話せなかったのはそれ程愛していたって事じゃないかな」 「………それって逆だろ」 「ううん……愛しているからこそ話せなかった……それは、愛する人を悲しませたくないから」 「何も聞かされずに消えられる方がよっぽど悲しいよ」 「それはさ、湊だから」 「湊だから?」 「湊の優しい性格が裏目に出る事までは考えていなかったって感じかな」 「かもな」 機内のエンジン音がやたらと響くような気がした それは気のせいかも知れないし、 また冴が黙り込んだからなのかも知れない
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