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大体予想はしていたのか、ラウドはしつこく問う訳でもない。
そもそも、軍人として真面目だったフィリアがそうやすやすと軍の秘密事項を喋るハズがないのだ。
ラウドのため息が部屋に響いたと思うと、それを掻き消すかのようにお湯が注がれる音が異様に響いた。
「まぁ、頑張って考えてみれば?」
「分かるか馬鹿」
コトンと二つ音が鳴ったと思うと、ムスッとしているラウドの顔の前に湯気が立ち上る。
カップのすぐ隣にはご丁寧に角砂糖の入ったビン。
「…サンキュ」
「どーいたしまして」
フィリアはカップに口を付けながらラウドの向かいに座った。
フィリアとイアンディール教官の不思議な会話。
あの中には、軍内で決められた用語がいくつかあったのだ。
雨──口外厳重禁止、それから交渉したい、という意味。
雷──第一級警戒態勢で周囲に厳重注意せよ、という意味。
暗黙の交渉を要求された時、応える側は雨を"否定"か"肯定"かで返答。
否定は勿論"交渉拒否"。
肯定は"交渉開始"。
拒否されればそこで終わりだが、イアンディール教官の場合は交渉を聞かせろという意志だった。
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