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星羅の声はしっかりしていたが、それでも何処かウンザリしていた。
『まあ、マネージャーが私と合わなかったんですよ』
マネージャー。
それは簡単に言うと、ファイターのために存在するやつ。
ファイターは戦えるが、知能が低い者が殆どだ。
そこの部分を補うために生み出されたのが、マネージャーなのである。
戦闘面でのサポート、暴走状態になってしまった時のストッパーとしての役割を持つ。
「──マネージャーの役割は君がやっているのかもしれないが、それでも星司を抑えるには未熟すぎる。
君は本来、ファイター向けの技術を持っているしね」
『それ、中学時代の理事長にも言われました。
だから危険物と判断されたんです、星司は』
危険物をいつまでも手を付けないのは、珍獣を野放しにしておくのと同義に等しい。
だから、理事長──否、姿の見えない黒幕は、星司の封印に踏み切った。
まあそれも、一時しのぎに過ぎなかったが。
そこで一瞬躊躇うが、絞りだすように言った。
「──悪いが、マネージャーがいない君たちを扱えは出来ない。
だから──君たちの記憶をすべて消す。そういう結論に至った」
『それは、黒幕の意思ですか』
星羅の視線から逃げるように、理事長は背を向けて去っていこうとする。
すると、ドアが開いて誰かが入ってきた。
「!稲葉隼人──くん、だったかね」
理事長の行く手を遮るかのように立ちはだかる隼人。
そして、信じられないことを言った。
「俺が、マネージャーになる」
『へ?』
星羅は思わず声を出すが、隼人は気にせず続けた。
「俺もファイターと思わせといて、実はマネージャー向きです。ただファイターとして育てられたから少し出来るだけ。
戦えるマネージャーが凶暴なファイターのストッパーになった方がいいでしょう?」
他人行儀な口調で、張り付けの笑顔を見せる。
その言葉に、しばし理事長は考えたが「よかろう」と言った。
「そちらの方がメリットはあるだろう。しかし、気を抜くな。星司が暴走した時には、死の危険さえも付き纏うかなら」
『あのー…』
「覚悟なら出来てます」
『あのー、私の意見は?』
もはや星羅は蚊帳の外だ。そうこうしている内に、
「では頼んだぞ」
と去っていってしまった。
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