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さて、今、組体操中。
私は体育、苦手。
だからペアの子に迷惑かけちゃうんだよねー。
まあ、あっちも下手だけど。
「あんた下手くそ!」と言って他のペアの子に話し掛けに行ってしまった子は相手にしない。
『…』
さて、どうしよう。と思う前に、視線を感じた。
そっちを見ると、先程手伝ってくれた隼人くん。
でも、笑顔が似合う男の子が普通しないような、睨み付けるような目を私にしていた。
『?(私、何か隼人くんに恨み買うようなことしたっけ)』
…やっぱ思い出せない。
私は記憶障害が常に生じているんじゃないのか?
『んー。隼人くんに謝っておこう』
さて、思い立ったらすぐ行動。体育の先生、意外と甘いから皆自由に行動している。だから私のことは目立たずに済んだ。
この時までは。
『は…隼人くん』
「ん?何?」
…あれ?さっきと全然違うぞ?
それでも、一応しておいた方がいいだろうな。
『隼人くん…私、何か悪いことした?』
「うん?別に、悪いことはしてないよ?」
あ、じゃあさっきのは勘違いなんだ。良かったー。
と思った矢先、彼の顔が歪んだ。
「君が憎いだけなんだよ」
──は?
そう思った瞬間、鋭い何かが顔の中心に向かってきた。
それをあらんかぎりの反射神経でかわす。
但し、眼鏡がそれに触れ、飛んでいく。
その光景に、周りで話していたクラスメイトの声が無くなった。
『は、隼人──くん?』
「ははっ、何?その猫かぶり。中学時代のように堂々としたらいいのにさあ。
あの時は不細工でもネクラでもなかったよね?」
そう目の前の稲葉隼人は言いながら、星羅に向けたナイフをくるくると手の内で回した。
「い、稲葉!なんだそれは!」
突然のことに青ざめる先生だが、そこは年上として生徒に怒鳴る。だが隼人はそんなのはどこ吹く風である。
目は、目の前の星羅にだけ向いている。それは恋仲だったら大変嬉しいのだろうが、星羅は恋らしい恋愛をしたことがないし、そんなのはこの状況では言ってられない。
『中学時代の事は、あんまり覚えてないんだよ。
よく分かんないけど…』
「はあ?何それ」
あからさまに顔をしかめ、回していたナイフを握る。
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