コトノハー言刃ープロローグ

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…… ガチャ…… 「……ただいま…………」 静寂に満ちた家に私は一人寂しくただいまと言ってみる。 血がまだ頬に滴るのを感じる。 ハンカチという布切れで強引に止血したせいか、まだ少し傷口は開いているようだ。 リビングは真っ暗で物が至る所に散乱している。 「兄さん達……またやったの……」 少し自分の兄に呆れながらタンスに手を伸ばし、包帯を取り出した。 左手に力が入らない……か…… そんなことを思いながら額に包帯を巻く。 今回は肋骨一本折れたのが一番重傷だろうか? それとも額の出血? どちらも私という存在に苦痛を与えているのは確かだ。 …… 「ただいま……」 兄の声が静かな家に響く。 「おかえり兄さん……」 兄が部屋に入ってきたので、私は在り来たりな台詞を口にする。 「なんだ?その様は?」 低いのにはっきりした声が唐突に私を刺した。 …… 「ちょっと喧嘩して……」 私は嘘をつくなんてどうやればいいのかわからない。 「嘘だな……」 そう言って兄は私の左手を掴み床に押し倒した。 これもいつものことなのだ…… 「綾……なんで殺られそうになった時に抵抗しなかったんだ?」 兄の口から出た言葉の答えは簡単だった。 死ねると思ったから……ただそれでしかないのに…… 兄はそれをわかっているのに、私に問いかけているのだ。 「殺られる前に殺ってしまえばいいのに」 兄からはいつもの言葉を囁かれた。 殺せば……私は楽になるのか?…… ならないよね…… 考えるだけで私は笑いだした。 ……滑稽 「……仕方ないか」 兄はそう言い残してリビングから出ていった。 私の家族は兄一人である。 父は借金残して他の女とどこかへ行ってしまった。 母はそれが原因で病死した。 結局、借金が家族みたいな一家だった。 最近はヤクザが家に住み着いている。 たぶんヤクザの本拠地にでもなっているのだろう。 私は学校に行きながらそんな人達の面倒を看ている。 まぁ主に食事だけど…… 「……」 …… 寝よう…… 身体を横に倒して床の冷たさを感じながら、私は暫し眠りについた…… 夜中に私は起こされた。 いつものように私は身体を起こす。 「綾ちゃん、親分がお呼びっすよ」 言葉の内容なんてそのままだが私には嫌なことだろう。 気が進まない身体を意識で強引に動かす。 「……」
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