心-シン-

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抱きつく俺を、シンはただ無言で、 優しく抱きしめてくれる。 その時――… ガンッという今までに聞いたことがないほど大きな音が響いて、 俺はハッとして視線を上げた。 その俺に気が付いたのか、 シンも顔を上げて周囲を見回す。 「…寮監の仕業か」 「うん。そう…らしい」 「なら、早く抜け出さないと…この場所が崩れるぞ」 シンの言葉の通り… 周囲は段々と崩れ始めて、 ピシピシという嫌な音と…煙が充満し始めている。 時間が本当にわずかなのは、 状況をあまり理解できていない俺にも、シンにも分かる程だった。 「ササル!」 キョロキョロとし始めた俺を、 背後で誰かが呼ぶ。 その声は、シンと戦った時に一度聞いた声で… 「ササル!早くこの場所から逃げるぞ!」 「武!…と満潮!」 瓦礫の不安定な足場を乗り越えて、 俺たちに手を差し出しているのは武と満潮だった。 「つけたしって酷いなぁ…」と満潮がぼやきながらも、 炎を超えて俺達の方へと歩いてくる。 そして、俺の近くまで来ると… 表情を和らげて俺の頭を撫でてから、 シンの腹にドスッと鋭いストレートを埋め込んだ。 「……っ、…っ」 痛みに涙目になるシンに対し、 武はベッと舌を出して、満潮はケラケラと笑っていた。 「少しはお前のこと、認めてやるよ」 「…ってぇな…」 武はそういい捨てて、フイッと顔をそらす。
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