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…けれど、周囲の炎を見た途端、
顔を歪めて「急がないとな…」と呟いた。
――…急がなければ、
この場所から逃げ切れなくなる、と武は言いたかったんだろう。
炎の熱風に顔をしかめる。
その俺の手を握って、シンは言った。
「逃げるぞ」
「……うん」
シンの言葉にコクリと頷くと、
武と満潮もクルリと踵を返す。
けれど、そこでふと…ある事を思い出す。
「そういえば紅蓮はどうなったんだ?」
俺のその問いには、
誰も状況を理解していないらしく、ただ首を振るだけだった。
俺の側にイルカが来たという事…。
ミイトとシキ先輩、そして光一という三人を紅蓮とイルカは相手にしていたはずだ。
…シキ先輩は戦力ではないと言っていたけれど、
それでも、光一とミイトの二人を相手にしていた事に変わりはない。
「その疑問には、俺が答えるよ~」
走り出そうとしていた俺たちの横に、
音もなく現れて、ひらひらと片手を振る、神出鬼没な男。
――…雅幸。
「アンタ…何か知ってるのか?」
「まぁ、さっちんの疑問に答えられるくらいは」
ニコッと笑う雅幸だけれど…
それがかえって胡散臭い。
「今の状況から、詳しくは説明できないけどさぁ」
「あぁ」
「ミイトとシキはイルカの手によって敗走、元々イルカは戦闘向きだしね…ここは予想通り」
「…で?」
「で、こーちゃんは……」
雅幸がそこで言葉を逃がした時…
炎の燃える音の向こう側から、微かに銃のような音を聞いた気がした。
「――…まさか、紅蓮…」
「多分、さっちんの予想は当たってる」
ふっと赤い炎が揺れて、
その向こう側を俺の目に写し出す。
ゆらり、と真っ赤な髪が舞い…
金色の髪がそれを追う。
目で追うのがやっとなくらいの速さでぶつかり合うその二人は――…
「まさか、ずっと戦ってんのか?」
「そうなるね」
「でも、この場所もうすぐ崩れるんだろ?」
「そうなるね」
笑顔を顔面に貼り付けたまま、
雅幸は俺に返答する。
「何でそんなに冷静なんだよ!雅幸!!」
「……」
叫んでから、バッとシンの手を振り払って…
俺は紅蓮が戦っている場所に走り出そうと、
した、んだけど…
「これが、こーちゃんの願いだから」
笑顔を貼り付けたままの雅幸に腕を握られて、
そのままヒョイッと担がれた。
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