心-シン-

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「…紅蓮の、願い?」 「そう」 ガラガラと、あちこちで何かが崩れるような音がしている。 この場所の耐久度は、 本当に秒読み状態なんだと、その時俺は悟った。 そして、担がれて分かった事実がもう一つ…。 「紅蓮たちの近くの壁に居るのって…」 激しい激闘を繰り広げる二人の横に、 まるで人形のように壁にうつかる人物が一人。 全身を真っ黒な装束で包んで、髪も、肌も真っ黒な… 「イルカ?」 そう問いかけると、雅幸は何も答えずに無言で歩き出した。 「なぁ…、これって一体どういう事だ?」 じたばたともがくけれど、 どこにそんな力(ちから)があるのか… 雅幸の手は振りほどけなくて、 ただ俺は子供みたいに雅幸の腕の中で足掻くだけだった。 「雅幸…!!説明しろよ!!」 雅幸の背中を何度も何度も殴りつける。 その雅幸の後で、武が難しい表情を浮かべる。 「大体、お前ら三人の考えてる事は分かるんだけどな。…ちょっと自分勝手すぎないか?」 「それが、俺たち三人の決着だとしても?」 「だとしても」 キッパリと言い切って、 武は雅幸に背中を向けた。 「お前らの好きにさせてたまるか…」 「満潮、たけるんを…押さえて。理由は後で説明するから」 「てめぇ…雅幸!ミッチもこいつの言葉なんて聞くんじゃな――…うわっ!」 満潮は、雅幸が俺にしているように、 武を肩に担ぐと、フーッと疲れたような溜息をついた。 「俺も本意じゃないんだけどね。今は従ってあげるよ」 「…ありがとう」 素直にお礼を言う雅幸と、 眉をしかめる満潮。 そして…その後ろで眉間に皺を浮かべるシン。 そのシンで目線を止めた俺は、 シンがゆっくりと目線を上げて…口を開くのをただ黙って見て居た。
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