心-シン-

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「……っ」 「何を考えている、紅蓮」 「なーんも?」 脆くなった壁が、 ガラガラと音を立てて俺たちの間に落ちる。 それを、光一は無表情のまま見つめて… チラリとイルカに目線を向けた。 いまや、イルカは完全に虫の息という状態だった。 目の中に光は灯らず… ササルに見せた笑顔が、こいつなりの最後の力(ちから)一杯の… 優しさであり、愛情表現だった。 本当、 俺も――…イルカ、お前も… 報われない恋をするよな。 「紅蓮、お前も…こいつも…本当にバカだな」 イルカから視線を外して、 光一は立ち上がった俺に向かって再び踏み込んでくる。 それを片手で往(い)なして、 今度は俺が光一を弾き飛ばした。 俺がバカな事は知っている。 バカで変な意地を張って――… そのせいで、こうして大切なモノを二つも失おうとしているんだ。 「光一…お前の憎しみが和らぐ事はあるんかの?」 「断言しよう。一度でも死なない限り…私はこの憎しみから解放される事はない」 キッパリと言い切って、 光一は口の中を切ったのか… 地面に血を吐き出して、口元を拭った。 「だから私は、お前に止めて欲しかった」 「知っとったよ」 「お前が、本当に優しい奴だって――…昔から知っていたからな」 「それは、マサとお前さんオンリーじゃよ」 クスクスと笑って、 俺は光一に向けて白い銃を構えた。 流石に、銃の弾は無限とはいかない。 “白い羽の力(ちから)”を使えば使うほどに、 自分の中の命か何かを削られているような錯覚に陥る…。 それは、俺の中の体力を削って打たれる力(ちから)。 つまり、そう何発も立て続けに打てば、 自分自身が動けなくなり…結果、負けに繋がる。
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