心-シン-

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だけど――… 銃を持っている方とは逆の腕から血を流す光一に、 俺がもう一度弾を撃ち込んだら、 それはきっと、こいつにとって確実に致命傷足りうる物になるだろう。 その俺の銃を金色の髪の隙間から見つめて… 光一はフッと笑った。 「私はお前を利用したんだ。…紅蓮」 「それも…分かっとったよ。お前の顔を見て…全部、俺は悟った」 光一が望んでいることも… したかったことも… だからこそ、こうしてマサに言って研究所を崩し、 光一と正面から打ち合う覚悟をした。 光一自身に、この数年で研究所で何があったのかは分からない。 ただ分かるのは… きっと、許せないほどに苦しい悲しみだったんだろう。 「私の中に、研究者 草名唯を飼っていた時期があった…」 「……」 「研究所に植えつけられたからだったが、そこから私の全ては狂い出した…」 俺に向かって歩き出す。 ぽつぽつと、誰かに聞かせるでもなく… ただ独り言を呟くように、光一は言葉を続けた。 「元々私の中に在った憎しみが、それによって暴走した」 「……」 「朝も昼も、夜も…私の中で囁いて居た」 ガシャンッと音を立てて、 光一は俺に向かって銃を投げて寄越した。 ――…何のつもりだ? そう問いかける意味で視線を上げると、 光一はただ…天井を向いて泣いていた。 「苦しかった…憎かった…、壊さなければ私の中のアイツが暴走しそうだった…」 だから…、と光一は続けた。 「だから、私は自分を…そして研究所を…全てを壊した」 足元に転がってきた光一の黒い銃を拾い上げて、 俺はそれをジッと見つめた。 所々傷がついているのは、 目の前のソイツがそれだけ戦ってきた証であり… そして、悲しみであり憎しみだった。 「私はもう…止まれない。紅蓮、お前に止めてもらうしか…方法が無いんだ」 「最初からそれを素直に言えばええのに」 「そうだったかもしれないな…」 所詮、それは“だったかもしれない”であって、 決して元に巻き戻せる物ではない。 「私にとっても、いや…全てのこの力(ちから)を持つ者にとって、西風 刺は何よりも得難い宝玉だった」 「そうじゃな…」 この短期間で、俺がこれだけ惹かれてしまったのも… 本当は上げるつもりの無かった腰を上げたのも… 全ては、惹かれて止まない、宝玉のためだった。
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