心-シン-

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多分、俺の中の“白い羽”がササルに惹かれている、 というのが一番当てはまるのかもしれないけれど、 今はきっと… あの純粋で…突っ走ると止まらなくて、 仲間思いで、泣き虫で、意地っ張りで、素直じゃなくて… そんな、ササルが俺の心の中に入ってきてしまったからだと分かっている。 だからこそ、守りたいと思い…命をかけても幸せにしたいと思った。 「この苦しみから…解き放たれると、解き放ってくれると…私は願ってしまった」 胸の辺りをギュッと掴んで、 光一は俺に向かって歩いてくる。 炎に照らされて、金色が赤く染まる。 その色を、不謹慎ながら…綺麗だと思った。 「でも、私には…お前が居た」 「そこで思い出してくれたんなら光栄じゃよ」 俺の目の前に立って、 自分の胸を掴んでいる逆手で、 俺の心臓の上に手を押し付ける。 「――…昔からお前は嘘吐きだ」 「あぁ、そうじゃの」 「でも、その嘘は…お前が優しいからついた嘘だった。いつだって…」 「だから、それは勘違いじゃって」 俺は優しくない。 俺がもしも優しかったのなら… きっと、こんな状況になるまえに光一を救い出していたし、 それになにより、 研究所で奪ってきたいくつもの人生を…奪いはしなかっただろう。 ピシッピシッと、 建物が嫌な音を立てて居た。 その音に、ハッと顔を上げた光一に、 俺は――… 素早く鳩尾に拳を入れた。 「う、ぐぁ…っ」 うめき声を上げて、光一は一度俺の胸を握り締めると… そのまま、ドサリと俺の腕の中に倒れ込む。 ――…俺は卑怯かもしれない。 よいしょっと光一の体を担ぎ上げて、 俺は目を閉じて弱々しい呼吸をしているイルカの横に光一を座らせると… その二人の正面に胡坐をかいて座り込んだ。 「…イルカ、光一」 そっとイルカの頬に手を当てて、ゆっくりと擦る。 真っ青な表情に、その一瞬だけ… 微かに嬉しそうな表情が宿った気がした。
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