心-シン-

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「俺は、俺が生きていた意味を全て失いました」 スッと俺の足元に膝を付いて、 ミイトは俺に、物語の騎士がそうするように…頭を垂れさせた。 「俺はあの人そのもの…俺が在ったのはあの人のため…」 微かに声が震えている気がするのは、 きっと気のせいなんかじゃない。 きっと…ミイトにとって、あの光一という人が… 複製の元というだけでなく、 それ以上に慕っていた存在だったんだろう。 「俺は、ササルの為に生きます」 「…え?」 正直、許せない…とか、そんな単語が出てくると思った俺は、 頭の上に幾つもハテナマークを浮かべて首を傾げた。 「どうして…」 「どうしてもです。…俺を、貴方の側に居させてください」 戸惑う俺に畳み掛けるようにミイトはそう言って、 立ち上がった気配がした。 「シンに断られる事は分かっていますから…、返事はいりませんよ」 シン、という単語に目線を上げれば… 確かに、面白くなさそうな表情をしたシンが居た。 「返事は要りません……が、勝手に俺はササルの側に居る事にします」 ミイトの言葉に、シンは表情を歪めながらも… けれど始終ただ無言だった。 それはきっと…こいつなりに、 光一を失ったショックを自分自身の中でも感じているからなんだろう。 「だったら…」 ミイトが生きる意味を失ったように、 きっとシンもシキ先輩も…それは同じ事なんだろう。 おもむろに口を開いた俺に、「ん?」と武が首を傾げる。 「全員、【白-シロ-】になれば良いじゃねーか…」 「…うん、確かにササルの言う事には一理あるな」 俺の言葉に同意して、武は考えるように両腕を組んで、 付け足すように言葉を発した。 「簡単にはいかねぇだろうけど」 それは分かっている。 なんせ、【白-シロ-】を追い込んだ存在である、 しかも…その張本人の二人を仲間に入れる、って事だ。
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