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硝煙の香りが漂う戦場地帯。
そこを疾走していく少年の姿があった。
年は十代半ば程、体には返り血らしきものが染みついたミリタリー服を纏って、腕には銃器を抱えて。
少年がしばらく走り続けていると、今にも倒壊してしまいそうな掘建て小屋が見えて来た。
少年は小屋の近くまで駈けて行き、小屋に入る事はせず、その壁に寄りかかる様にして座り込む。
そして無言のまま、固形食糧を口に放り込んだ。
「おや、誰か知らんが食事かい?」
いきなり、何処からかくぐもった声がした。
少年は体を大きく震わせ、銃器を構える。
しかし、周囲に人影は無かった。
「何処だ、何処にいる?」
「此処さ、このボロな小屋の中だ」
少年が小屋の方に振り返る。
確かに、声はそちらの方から聞こえていた。
「あまり、大人の様な渋い声はしていないな……子供か?」
「まだ成人はしていない」
「そうか……お前みたいな坊主がこんな所で不味い食糧を食べているとは驚きだ」
小屋の中にいる誰かが、そう言った後に咳き込む。
「アンタは男だな。しかも、それなりに高齢のおっさんだ」
「ああそうだ。おっさんらしい、年相応の渋い声をしているだろう?」
そこで会話が途切れる。
流れる沈黙に、たまに咳き込む声や食事を摂る音が混じりながら、時間は過ぎて行った。
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