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「……年を重ねた大人の話ってのは、聞くに値するものがあるな」
「そうか?そう言って貰えると嬉しいがね」
男は少しだけ嬉しそうに、そんな事を言う。
「なあ、おっさん」
「どうした?」
「俺は……あんたみたいにカッコいい事を言えない。まだまだ若くて、青いからなのかも知れないが、俺はあんたの様な聞く価値のある話を出来ないんだ」
「それがどうかしたのか?」
「何かを語ろうとすれば、出て来るのは小奇麗な言葉ばかり。そう、正に今あんたに話している様にしか、自分が想った事を話せない。でもあんたは違う。俺の、まるで上辺だけな言葉と違って、あっさりとしていて、且つ心に響く事を言えるんだ。俺は、あんたが羨ましいのかも知れないな」
「そうかい。でも俺は物書きになるよりも、話し手になるよりも……銃を持って戦場を掛け回っている方が、しっくりくる。とりあえず言えるのは……大人になればわかるって事くらいだな」
男がまた咳き込む。
先程のよりも、少し酷い咳だ。
「俺達みたいな奴は、戦場で生まれて戦場で死ぬべきなのさ。さしずめ、香水の香りよりも火薬の匂いの方が似合うって所だな」
その言葉を最後に、二人とも黙り込む。
少年が次の食料を口にした時、男はまた話を始めた。
「坊主、朝になったら小屋に入ってみろ。俺からのプレゼントをくれてやる」
「扉を開いたら銃弾が送られて来たなんてのは嫌なんで、遠慮しておく」
「いいや、そんな物騒なもんじゃないさ。お前の戦争まみれの人生を助けてくれる、最高のアイテムをくれてやろう」
話し終えると同時に、男が咳き込む。
段々と酷くなっている様だった。
「じゃあ、戦に疲れた老兵はそろそろ寝るとしようかな」
「俺がこの壁ごと、あんたを撃つかも知れないのにか?」
「その時はその時さ。それにまさか、優しい少年はそんな事しないよな?」
「さあな」
少年はまた固形食糧を取り出し、頬張りはせずに、少しずつかじる。
どうやら、次で食糧は最後らしい。
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