後輩編

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「ありがとうございました~」 元気いっぱいの声が私を送り出す。 「やっぱり平日はすいてるわ」 入社して1年、初めて大きなプロジェクトに参加させてもらえたが、2ヶ月近く残業や休日出勤が続いていた。先週、やっと一段落ついたので、リフレッシュしようと有給を使い、朝から美容院にきていたのだ。 「あれ、先輩?」 声がした方を振り向くと、大学の後輩がスーツ姿で立っていた。 「…野中くん…?」 でも彼はまだ4回生のハズなのにスーツ? 私が疑問に思ってるのに気づいたのか、彼はにっこり笑って言った。 「面接の帰りなんです。先輩こそ平日なのにどうしたんですか?」 「しばらく忙しいのが続いたから有給とったの」 「じゃあこのあと空いてますか?よかったらご飯食べにいきません?」 野中くんの案内で行ったのは、海の見えるお洒落なレストランだった。 「先輩と二人でご飯なんて初めてですね」 確かに…そう思って彼を見ると、彼と目が合った。今日はスーツのせいか、普段と違って大人っぽく見える。急に恥ずかしくなり、目の前のパスタを口に運んで誤魔化す。 「…すごくおいしい」 「よかった、気に入ってもらえて」 昔話に花を咲かせ、店を出ようとすると、いつのまにか支払いがすんでいた。 「いくらだった?払うよ」 「いいですよ、少しくらいかっこつけさせて下さい」 「でも…」 「じゃあコーヒーおごって下さい。その前に少し散歩しましょう」 少し歩いたあと、海を見ながら話をする。 「ねぇ先輩。僕の就職が決まったら、僕のこと男として見てもらえますか?」 「え?」 「ずっと好きだったんです、先輩のこと。…先輩は大人の男性が好きって聞いてたんで、諦めようと思ってたんですけど…今日偶然会えて、ちゃんと伝えたいと思って…」 「…」 野中くんがそんなふうに思ってくれてたなんて…あまりに突然で驚きと緊張で言葉がうまく出てこない。 「やっぱり…年下じゃダメですか?」 不安げに見てくる彼。そんな顔をさせたくなくて、ドキドキを押さえながら答える。 「とりあえず『先輩』って呼ぶのと敬語をやめにしない?」 一瞬の驚いた表情から、嬉しそうな顔になる彼。これからどうなるかなんてわからないけど、今より距離を縮めてみたい。くるくると変わる彼の表情を見て、そう思った。 END
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