第1章 好きこそ物の上手なれ

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 こういうとき、まず何をやるべきだろう。現場調査と目撃情報の収集くらいだろ。現場となった準備室は、普段施錠がしてあり、外部からの侵入は難しい。  しかし、美術室と準備室を繋ぐ扉には施錠はされていない。  つまり美術の授業などで美術室に入ることさえできれば、準備室にも簡単に入ることが出来るということだ。  だが、犯行があったと思われるのは、俺が前に美術部へ来てから今日までの間。  その期間は春休みで、授業で美術室を解放してはいなかった。そうは言っても、課題を美術室でやりたいという生徒のために何度か美術室を解放している可能性もあるが。  さらに、美術室、準備室の鍵は職員室に保管されていて、教師に申し出れば誰でも簡単に借りることが出来る。考える程に、容疑者は増える一方だ。  絞り込み検索をかけるとするなら、キーワードは『絵の存在を知っているもの』『俺の絵に盗み出す価値を感じるもの』の2つか。  たまたま準備室へ入り、たまたま俺の絵を見つけたのなら話は別だが。前者の条件を満たすもの、それは俺が美術部で活動していると知っているものだ。少なくとも去年、一昨年のクラスメイトは知っている。  後者の条件では絞り込みにならないな。よほどの馬鹿を除き全員だ。 「お兄ちゃん、こうなったら聞き込みしかないよ」  険しい顔でうんうん唸る俺を見兼ねて、のぞみが聞き込みへ行くことを提案する。  考えても仕方ない。新学期早々面倒な事件に出くわしたもんだ。とにかく今は行動あるのみ。
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