第1章 好きこそ物の上手なれ

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 逃げ出すように職員室をあとにして、美術室へと戻った。まだ2人は戻っていないし、小野先生もいない。 「じゃあまだ焼却炉のとこに居るんだね」  捜査は足だと体言するように、のぞみは歩き出す。探偵ごっこが楽しくてしかたないというように、時折スキップを織り交ぜている。状況を理解できているのか。俺の命ともいうべき大事な絵がなくなったんだぞ。いや、それは言いすぎだな。俺の命ほどの価値を有する物なんてこの地球上に数えるほどしか存在しない。  だがまぁ、状況が分かってないのは俺のほうか、面倒臭がっている場合じゃないよな。行くんだな、わかったよ。後を追い俺も歩を進める。  遠いとは言ったが所詮は学園内、すぐに焼却炉に辿り着いた。春のポカポカした陽気は、焼却炉による熱気に支配されていた。夏には絶対に近付きたくない施設だな。 「小野せんせー、どこー?」  熱の影響を受けたのか、急にのぞみに気合が入る。普段から周りを見ていないのぞみには、焼却炉しか見えていないんだな。小野先生は焼却炉から5M程離れたところで、どこからか持ち出したであろう、パイプ椅子に座っている。 「ここですよ、長谷川さん」なんとなく安心感を感じる笑顔を見せ、手を振りのぞみを迎える。 「先客万来ですね。今日は皆さんどうしたのですか?わざわざこんなところまで」 「あのね、お兄ちゃんの絵がなくなっちゃったの。それでね…なんだっけ?」  勢い良く話し始めるのはいいが、見切り発進は危ないぞ。 「それで、先生に心当たりがないかと思って来たんです。最後に確認したのは春休み前なんです。保管場所を変えたとか、誰かが移動させたとか、なにか知りませんか?」  誰かに盗まれたんです。美術室に入った生徒を教えてください、なんて言えるわけないし、オブラートに包んでみた。のぞみなら直球ど真ん中で聞いていただろうな。 「うーん、保管場所は変えてないし、春休み中は部活でしか使っていないので、部員の皆さんに聞いてみてはどうでしょう。なかなか良く描けた絵でしたから、誰かがこっそり忍び込んで持って行ってしまったかもしれませんね」  笑顔を乱すことなく答えてくれた小野先生。やっぱり毒舌コンビに聞いてみるしかないな。  美術室へ戻ろう、そろそろあいつらも帰ってきているかもしれない。
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