第1章 好きこそ物の上手なれ

14/20
前へ
/65ページ
次へ
「じゃあ2人に聞いてみることにします。先生はいつ頃部活に来られますか?」 「これが終わり次第行きますよ。あと1時間程ですかね」  そんなにかかるものなんだ…じゃぁね先生、と手を振るのぞみを連れ、再び美術室へと戻る。いまだに収穫0だ。こうも不作では不満も溜まる。革命ってのはこういうときに起きるんだな。 美術室に2人の姿はなかった。まだ戻ってないのか…。 仕方なく事件現場である準備室に足を運び、解決への手がかりを探しながら2人の帰りを待つことにした。 俺が前に準備室へ来た終業式の日から今日までで、なくなっているもの、そして増えているものはなんだ?思い出せ、あの日の光景を、俺ならできる。俺は天才だ。 目を閉ざし、拳を額にあて考えをめぐらせる。今の俺はまさに考える人だ。 「どうしたの、お兄ちゃん。頭痛いの?知恵熱?脳梗塞?保健室行く?それより救急車呼んだ方がいいのかな?誰か~大変だよぉ~。お兄ちゃんが死んじゃったよぉ」 のぞみが慌てて騒ぎ立てる。馬鹿も大概にしろと言いたいところだが、これは俺にも非がある。考える人の写真を見せて、これは頭痛で苦しみ最後には石化してしまった人なんだ、と教えたのは俺だ。そんなアホなことでも信じてくれる、純粋なのぞみが大好きだ。 「大丈夫、ちょっと考え事をしてるだけだ」 大好きだが、今はちょっと黙っててくれ。集中したいんだ。 俺の声を聞き、急に金縛りにでもあったかのように動きを止め、そぉっとこちらを振り返ると、へたへたとその場に崩れ落ちた。ようやくゆっくり思案に耽ることができそうだ。 考えること数分、やっぱり俺は天才だ。全て思い出した。目を開き、相違点を探す。思い出してみると、いろいろ変わっているものだな。俺が見つけたのは3つ。 まず、壁に掛けられている絵、前に見たときは卒業生の書いた校舎の絵だったが、今は遠藤作の学園内の桜の絵に変わっている。 次に、引き出しの配置、先輩が卒業し使わなくなった1番上の引き出しと香織の使用している引き出しの位置が入れ替わっている。 そして最後は、机の上にあった粘土がなくなっている。小野先生が陶器の材料としていたものだが、今のところ準備室内に新しい作品は置かれていない。
/65ページ

最初のコメントを投稿しよう!

241人が本棚に入れています
本棚に追加