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数分後、静かに扉が開かれた。お待ちしておりました。買い物袋を持った香織と遠藤が、談笑しながら美術室へ入ってきた。あともう少し遅かったら、のぞみに全て話しているところだった。その少しあと小野先生もやってきた。
役者は揃った。ただ今より、解決編開幕いたします。
「皆さんをここに集めたのは、他でもありません、事件の真相を解き明かすためです」
気分は探偵、室内をうろうろ歩き回り、全員の様子を伺う。
「シスコン先輩、なんのお話をされているのでしょうか?常々頭のおかしい人だとは思っていましたが、本当におかしな人だったのですね」
買って来たばかりの絵の具を取り出しながら、一度も俺のほうへ視線を送らないままに罵倒の言葉を浴びせてくる遠藤。失敬な、俺は至って正常だ。
そうか、香織と遠藤は俺が事件を捜査していることをしらないんだったな。
「実は、俺の絵が何者かに持ち去られたんだ。そして少し前、俺は天才的推理力を駆使し、犯人の目星をつけたところだったんだ」
ここから始めるべきだったな。出だしで躓いた推理ショーだが、本番はこれからだ。
「謎を解く鍵は現場に全て残されていた。まず、なくなっていた粘土、これは盗まれたのではありません。小野先生が陶器を作るのにつかったと見て間違いありません。そうですね。小野先生」
教卓の前に座っていた小野先生に尋ねる。
「ええ、そうですよ。それと今回の事件と何の関係があるのですか?」
「今日、小野先生は焼却炉にいた。随分長いことかかっていたようでしたが、いったい何を焼いていたんですか?今日は点検を兼ねてわずかなゴミを燃やした程度のはずですそれほど時間が掛かるとは思えない」
指摘を受けた小野先生は、いつもの笑顔のまま、続きをどうぞと言うかのように、手を差し出した。
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