第1章 好きこそ物の上手なれ

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「お疲れっす」  放課後、俺は一度生徒会室へ寄った後、美術室へと足を運んだ。この学園は1号館と2号館に分かれていて各館4建てだ。1号館には、職員室や図書館、美術室など特別教室があり、各クラスの教室は2号館にある。  3年6組は2号館の1階東側、生徒会室は1号館4階西側、そして美術室は1号館1階西側に位置している。何が言いたいかというと、教室、生徒会室、美術室というルートは結構な距離があるということだ。唯一の欠点が体力不足という俺にはつらい配置だ。  さらに、どうでもいいことだが、俺は美術室が嫌いだ。言いづらい、改名を要求する。 「全然疲れてなんてないもん。まだまだこれからだよ。お兄ちゃん今日は生徒会お休みなの?」  いの一番に出迎えてくれたのは、1つ下の後輩で、俺のかわいい妹分の長谷川のぞみだった。のぞみとは近所付き合いが長く、お互い一人っ子だったためか、俺を兄と慕ってくれている。コンタクトレンズをいれることを想像するだけで目が痛くなるような俺だが、のぞみなら目に入れても痛くはないとさえ思える。 「あぁ今日は他の人に任せてある」  今日はというか、ほとんど毎日任せっぱなしだ。押し付けて逃げてきたと 言っても、あながち間違いではない。 「あれ? 生徒会ってお兄ちゃん一人じゃなかったの?」 「お前には話してなかったか? 生徒会は正式な部員は俺一人だが、実はもう一人部員がいるんだ」  いくら俺が完璧超人とはいえ、分身の術は体得していないので、さすがに一人では仕事はこなせない。生徒会には、もう一人俺以上の優秀な人材がいるのだ。しかし、そいつには一つ大きな問題点がある。極度の恥ずかしがり屋ということ。人前で話すことが出来ないどころか、視線を受けると逃げ出す程だ。そのため、副会長という立場ながら、部員ではなく、お手伝いという形で生徒会に所属している。  美術部で遊んでいるなんて知れたら、すぐにでも連れて行かれると思う。  まぁ人見知りしないのぞみと、冷酷な香織が居るおかげで、あいつにとっては美術室の扉もベルリンの壁なみの障害となるだろう、来れるものならきてみろ。  突然、後方で扉を蹴り開けたかのような衝撃音が響いた。前言撤回だ。来るな。
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