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振り返ると、後輩で美術部員の遠藤静がいた。さすが天才、なんて的確な表現だろう。衝撃音の招待は、遠藤が扉を蹴り開けた音だった。早くもベルリンの壁崩壊だ。もちろん歴史的価値は皆無だが。
「こんにちは、シスコン先輩」
なんだ遠藤か、ほっと胸を撫で下ろし、先輩として後輩の間違いを正す。
「立木先輩だ」
「いいえ、シスコン先輩はシスコン先輩です」
全く間を空けず、しっかりと俺の目を見据えて断言する。この妙な呼び名は、昨日今日始まったことではない。1年前から何度も正そうとしているのだが、相変わらず遠藤はこの名で俺を呼ぶ。ロリコン先輩と呼ばれないだけまだましか。
綺麗な花には棘があるというが、遠藤はそんなもんじゃない。サボテンにも綺麗な花が咲く、と言ったところか。どちらにせよ、少なくとも綺麗ではあるのが何か悔しい。
「それと、お前。扉は丁寧に扱え」
「私の前に立ち塞がるものは、鬼でも仏でも薙ぎ倒します。扉も例外ではありませんから。それに、扉を丁寧に扱ってしまうと、シスコン先輩は扉以下の扱いということになりますよ」
両方丁寧に扱うという選択肢はこいつの中にはないのか?
「ちなみにシスコン先輩は、今私の進行方向を塞いでいます」
薙ぎ倒すのか? 仮にも先輩のこの俺を薙ぎ倒すつもりか?
「5…4…3…2…」
カウントダウンが始まり、反論の機会を失った俺は、急いで道を開けた。教室の一番後ろ側の窓際の席がこいつの定位置だ。その右隣では香織が絵を描いている。
絵を描いている最中に話しかけると、香織だけでなく便乗した遠藤にまで罵られるので、しばらくのぞみと遊んでることにする。
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