第1章 好きこそ物の上手なれ

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「ところであなたは何しに来たの?」  愛くるしい猫から一転、いつものクールな表情で質問をぶつけてくる。遠藤もいつの間にか席へ戻り、絵の具と睨めっこをしている。 「美術部へきたんだから、当然絵を描きに来たんだ」  放課後を香織と過ごすためというのもあるが、本来の目的は作品を完成させることだ。遊びに来たと思われるのも釈だし、描きかけの絵を取りに、美術準備室へ向かう。これもまた言いにくい。改名を要求する。  準備室には、完成を待つ作品を含め、美術部で作成したあらゆる作品が保管されている。お気に入りの作品は、額に入れ展示されていて、作品展の様になっている。中には顧問の前田先生の水墨画や陶器もいくつかあり、他の作品とは異質の雰囲気をだしている。一体どこで焼いてるのか。  未完成作品の保管場所である一番手前の棚の下から3番目の引きだしを開ける。部員数が少ない美術部では、それぞれ割り当てられた引きだしがあり、各々わかりやすく印がしてある。俺は単純にセロテープに名前を書き貼っている。香織の引き出しには、猫のシールが貼ってある。  引きだしを開けてすぐに、違和感を感じた。違和感の正体を確認しようと中を探る。 ない……。俺の絵が、なくなっている。 「なぁ、誰か俺の描きかけの絵を知らないか?」  美術室を覗き、作業中の3人に問い掛ける。 「お兄ちゃんどうしたの? なくなっちゃたの?」  のどみだけが駆け寄って来てくれた。やっぱり俺の味方はこいつだけだ。 毒舌コンビは見向きもせず作業に没頭している。先程絵を完成させた香織は、遠藤の絵を見つめ、時折アドバイスをしている仕草を見せる。 「あぁ、引きだしに入れておいたんだがな」 「もしかして盗まれちゃったのかも……。怪盗Xの仕業だよ」  誰だそいつ?ふざけているのではない。のぞみは不安そうな顔で真剣に話している。もしそんな馬鹿な怪盗がいるのなら、必ず俺が捕まえてやる。生徒会長の名にかけて。
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