四.【夏祭りの後で】

34/54
前へ
/517ページ
次へ
その甘辛い二口目を胃の奥へと流し込んだ時、ちょうど舞いは佳境に差し掛かる。  矢を構えた笑い鬼達に取り囲まれた一匹の鬼は、刀で応戦するも力一歩及ばず、捕縛されると岩戸らしきに穴蔵に幽閉されてしまう。 酒宴で踊りに狂う笑い鬼達が眠りにつくと、隠れていた猿が桜の小枝を手に岩戸の門を潜る。 幽閉されていた鬼を解き放った猿は、その小枝を渡すと、自らの身体を腹を空かせた鬼の為に差し出すのだった。 鬼は喰らう。 その血で全身を朱に染めながら。 そして、持っている桜の小枝が一振りの刀剣に変わると、眠っている笑い鬼達に次々と復讐の怒りをぶつけるのだった。 草原に立つ鬼一匹となった時、その鬼の前に蓮に乗った仏が現れ、一枚の銅鏡と、翡翠の勾玉を手渡すのだ。 それを受け取った鬼の顔は、激しく嗚咽して哭いていた。 仏は鬼の前で踊り祈りを捧げる。 その舞いの何と美しい事か。 暫く踊りに見とれていた鬼は、いつしか衣を纏った天女の姿に変わっていた。 やがて天女の周りでは草花が咲き乱れ、笑い鬼によって殺されたであろう人の魂が、彼女の足下に集い楽園を造り出すのだ。 ――そうした内容の物だと分かる。
/517ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1230人が本棚に入れています
本棚に追加