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「――いないの。元気で働ける男はみんな、とられてしもうたんよ。だから、此処には老人か子供しかいないの」
彼女は訛ってなどいなかった。だから、この村の住人ではないのかも知れないと考えたが、そうではないのだと直に判明する。
それよりも――
『とられた』って言い方は何か変だ。
まるで戦争にでもとられたような言い方じゃないか。
多分、都会暮らしにとられたって言いたいんだろうけど、それなら何故、彼女達はこの村を離れていないんだ?
この村を知ろうと思えば思うほど、疑問は波のように押し寄せてきた。
「あんた少し黙っときい。お兄さんが勘違いしてしまうじゃろう」
文美さんがおさげ髪の彼女を注意する。
その声はどこか強い。
「ごめんねお兄さん。彼女、最近越してきたばぁじゃけぇ、よぉ分からんと喋りょんよ」
「気にしないで下さい。彼女だって親切で教えてくれてるんですから、あまり怒らないであげて下さいね」
「まぁ、お兄さんって優しんじゃなぁ。惚れ直してしまうわぁ」
そう言った文美さんの手が僕の胸に触れてくる。
面に空いた穴から覗く目つきが艶かしい。
「ちょ、ちょとやめて下さいって。みんな見てますよ」
「あら、残念」
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