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僕の関心は、何処かに刻を置き忘れてきたかのような祭りの舞台から、病に冒され痩せ衰えた一人の老人へと向けられる。
焦る必要はない。
彼とは今夜、食事の約束をしている訳だし、その後ででも容易に話を訊く事ぐらいは出来るだろう。
今は祭りを楽しむ一人の男として、この場で怪しまれるような言動は控えるべきだ。
むしろ、狐のお面を被った可愛い女の子達と、あわよくば仲良くなろうなどと下心を抱く方が、この際適切な反応だと言えない事もない。
彼女達が隠そうとしているものに、僕の求める答えがあるのならば、それを悟られてはならなかった。
「そうなんだ。まぁ、踊りの件は置いといてさ。僕と一緒に祭りでも楽しまない?」
「うーん……」
口数の少ない小柄な狐は、友達の背中に隠れると顔だけを覗かせて照れていたようだ。
何をそんなに照れる必要があるのだろうと嬉しく思っていたが、団子髪の狐が彼女の気持ちを代弁する。
いや、『彼女達の』と言い直す必要があるかも知れない。
「折角の誘いじゃけど、お兄さんが佳奈の知り合いなら無理じゃわ」
「え、何で?」
「無理なもんは無理なんよ。もし佳奈に知られたら私達が恨まれてしまうわ」
そう言った彼女はお面の下で指をくわえる。
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