四.【夏祭りの後で】

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ケホ、ケホッ――  僕の後ろで身悶えていた文美さんが突然咳き込みだす。 そのうずくまり地面の土に両手を着いた姿から、これはただ事ではないと僕は不安で顔を曇らせた。  彼女の肉厚な唇は、次第に紫へと変色してゆく。 そして土に汚れた細い指先が、苦悶の表情を乗せた喉元を掻きむしるんだ。 いったい彼女の身に何が起きたのか? 『突然死』 物騒な言葉が頭を過る。 此処が寺院跡である事と、先程の幻覚がよりそう思わせていただけかも知れないが、普段の僕なら真っ先に否定するであろうあの事象を、この時ばかりは肯定していたに違いない。 (これも、あれの呪いだって言いたいのか……)  冷たい風が提灯の明かりをひとつ、続けてふたつと消し、祭りの賑わいに闇の足音を刻む。 それはヒタヒタと忍び寄る鬼の足音に似ていたが、拍動する僕の心音が正体であった。 「文美さん!」  慌てた僕が彼女の背中を叩きもって擦ると―― カハッ! 短く息を吹き返した音と共に、喉の奥につかえていたトウモロコシの芯が吐き出される。 「ケホ、ゴホッ……お兄さん……気付いてくれんのじゃもん。死ぬか思ぉたわ」  成る程、さっきから悶えてたのは、それが原因だったんだ。
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