1230人が本棚に入れています
本棚に追加
ケホ、ケホッ――
僕の後ろで身悶えていた文美さんが突然咳き込みだす。
そのうずくまり地面の土に両手を着いた姿から、これはただ事ではないと僕は不安で顔を曇らせた。
彼女の肉厚な唇は、次第に紫へと変色してゆく。
そして土に汚れた細い指先が、苦悶の表情を乗せた喉元を掻きむしるんだ。
いったい彼女の身に何が起きたのか?
『突然死』
物騒な言葉が頭を過る。
此処が寺院跡である事と、先程の幻覚がよりそう思わせていただけかも知れないが、普段の僕なら真っ先に否定するであろうあの事象を、この時ばかりは肯定していたに違いない。
(これも、あれの呪いだって言いたいのか……)
冷たい風が提灯の明かりをひとつ、続けてふたつと消し、祭りの賑わいに闇の足音を刻む。
それはヒタヒタと忍び寄る鬼の足音に似ていたが、拍動する僕の心音が正体であった。
「文美さん!」
慌てた僕が彼女の背中を叩きもって擦ると――
カハッ!
短く息を吹き返した音と共に、喉の奥につかえていたトウモロコシの芯が吐き出される。
「ケホ、ゴホッ……お兄さん……気付いてくれんのじゃもん。死ぬか思ぉたわ」
成る程、さっきから悶えてたのは、それが原因だったんだ。
最初のコメントを投稿しよう!