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「依頼主は札幌のご両親でよろしかったですかね?」
坂井は書類に目を通しながら情報を手帳に書き写してゆく。
「その通りです。あいにくとご両親は健康に問題がありましてね。東京まではとてもじゃありませんが足を運べないと……」
「事情はわかりました。それで、お届け先はご実家という事で?」
大家は少し困った顔をするのだが、ひと呼吸置いてからポツリと呟くように語り出すのだ。
「いいえ……。それが、荷物はこちらに届けて欲しいと」
取り出した一枚の紙きれには聞いた事のない住所が書かれていた。その名称を見て首を傾ける。
「岡山ですか? しかし聞いた事のない地名ですね……。首無村と声に出すまでもなく、何だか妙に物騒な地名にも思えますが」
「そうなんですよ。私も色々と業者にあたってみたんですが、どちらも届け先が分からないと引き受けてくださらないんです」
「まぁ仕方ないと言えば……」
大家は突然頭を下げて懇願する。
「どうかお願いします! ご両親も費用は幾らかかってもよいと言ってます。他に頼る所がないんです!」
坂井は大家の熱意にほだされてしまう。
事情を知った坂井は他の業者同様に断るつもりでいた。例え住所を調べ出したとしても、このような訳ありの物件に手を出せば、何らかの事件に巻き込まれないとも限らない。
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