第壱章【黒い烏】

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【真宿警察署付属病院―地下、検死解剖室―】 鼻にツンとくる様な薬品の臭いが充満する薄暗い一室。その中央に設置された手術台に無造作に寝かされた遺体を前に、二人の男が話し込んでいる。 「…ガイシャの身元は?」 二人の内の一人、煙草を咥えた白髪混じりの初老の男が、 手術台をまたいだ部屋の反対側にいる、白衣を纏ったボサボサ髪の青年に問い掛けた。 青年は部屋の机の引き出しからファイルを取り出し、開く。 「名前は斗賀野 葉子(とがの ようこ)。黒羽女子高校2年。バレー部所属…と。 あ~、結構可愛い顔してたんじゃないのよ~… もったいねぇなぁオイオイ…」 ファイルに挟まれた顔写真と、目の前の遺体とを見比べながら青年は溜め息をついた。そんな青年を無視して初老の男は質問を続ける。 「死因は?」 「ご覧の通りでさぁ。全身の水分という水分を失って…ミイラになってやがる。鉄分やら何やら、血液中に存在する物質は全部そのままに… とにかく身体中の『水』だけが綺麗サッパリ無くなっちまってんですわ。」 手術台の上に寝かされた斗賀野の遺体は、まさしく骨と皮だけと言っていい程に干からびている。 青年が遺体の腕をつまむと、その部分の皮膚がパリッ、とポテトチップの様な音を立てて砕けた。
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