第壱章【黒い烏】

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青年はけだるそうに腕を回して、部屋に備え付けてある丸椅子に座り込む。 「あ゙ぁ~どっこいしょっと… こいつも、あの『黒烏』の仕業なんスかねぇ?」 「『クロガラス』?」 聞き慣れない名前に初老の男は首をかしげた。 「知らないんスか?巷で流行りの都市伝説。最近、全身黒ずくめのカラスの化け物が、夜の真宿の街をうろついてるっつう噂っスよ。 「人を喰う」だの、「煙になって姿を消す」だの、ほとんど妄想レベルの根も葉もねぇ噂なんスけどね。」 「カラスに出来んのは、フンを垂れ流すか、ゴミを食い散らかす事だけだ。人を殺す事なんざ出来ん。ましてや、ミイラにするなんてな。 …そんな下らん噂話を信じるより先に、やることがあるだろうが。え?牧島解剖医?」 「『死体から受け取れる情報を、余す事無く報告しろ』、でしょ?五木源之助警部?へいへい、重々承知しておりますよ…」 眉間にシワを寄せた初老の男、五木 源之助(いつき げんのすけ)のノリの悪さに、青年、牧島 三郎太(まきしま さぶろうた)は肩をすくめた。
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