第壱章【黒い烏】

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「そういやダンナ、今日例の新人が来るって話でしょ?ダンナの下に着く事になってるっつう…」 ファイルの日付からふとその事を思い出した牧島が五木に問う。 「ああ…自分から真宿署に配属願いを出した物好きが来る。」 「余所に入った方が何倍も楽に仕事できるだろうに、何考えてんスかねぇ?」 「……さあな……」 『真宿』…… 本来ならば渋谷や原宿をはじめとする、東京の新たな一大都市となるはずであった街。 政界トップ達の不毛な権力争いによる政治の迷走、経済不況の煽りを受けた開発計画の遅延、凍結により、寂れた家屋だけが残った空虚な街。 その背景故か、はたまたその空虚な臭いに誘われたのか、殺し、盗み、詐欺、売春、麻薬…あらゆる犯罪にまみれてしまった狂気の街。 「正義」の象徴である警察の人間ですら、他人には言えぬ罪に手を染めている者が大半を占める、無秩序の街…。 だが、その事に異を唱える者は1人もいない。この不安定な世の中、皆、自身の事で手一杯だからだ。「生まれる前に死んだ」この街に、わざわざ気を留める者は存在しないのである。 …この真宿の街では、2ヶ月程前から、今回のミイラ騒ぎの様な奇怪な殺人事件や、謎の失踪事件が従来の犯罪に紛れて頻発している。さりげなく、だが確実にだ。
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