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二日目。
ここ数日。
あたしは和幸さんの部屋に泊まりこんでいた。
和幸さんの個室はもはや個室のいきを超えていた。
よくもまあ、注意されないものだと呆れるくらい、彼の部屋は彼とあたしの私物で溢れている。
あたしの私物はほとんど彼が揃えたものだけれど。
相変わらず。
彼はよく笑った。
よく食べ。
よく。
眠った。
彼の命は後一日。
もう。
目覚めないかも。
ぼんやりと。
あたしは思った。
「・・・な・つき・・・」
苦しい息の下で。
和幸さんはあたしの。
否。
‘菜月’を呼んでいた。
彼の命は後少し。
‘菜月’だったら。
どうしたのだろうか。
彼の名を呼んで。
彼を一時的でも死の淵から呼び戻すだろうか。
このまま。
安らかに逝かせるだろうか。
迷っている間に。
ぼんやりと。
彼が瞳を開いた。
「君の夢をみてた・・・」
「・・・どんな?」
「二人で行ったろ・・・?」
「ラベンダー畑?」
‘菜月’と彼は。
国内旅行しかしたことはないはずだ。
「君は大好きだと思った。」
「紫は好きよ。」
「君の機嫌は悪かった。」
「貴方がコロンなんか付けて来るからだわ。」
香りが混ざって、異臭になったと、あたしは顔をしかめた。
クスクスと。
貴方は笑う。
「仕事が押してたんだ。」
言い訳にもならない言い訳。
なんで今更?
問う前に。
彼の顔が近づいた。
彼女の唇に。
彼の唇が重なる。
もう何度交わしたであろう口づけ。
‘菜月’は何度。
この唇に触れたのだろう。
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