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「今日はどうする?」
クスクスと。
また、和幸さんが笑った。
「菜月は毎日そればかりだ。」
だって。
貴方の命はもう、少ししかない。
‘菜月’を。
愛せる時間も。
少ししかない。
「・・・今日は、外に出ようか。」
貴方は優しく語りかけた。
陽射しが眩しい。
折よく今は初夏。
注ぎ込む風も気持ちいい。
「・・・顔色、良くないわ。」
「外が見たいんだ。」
駄々をこねるように和幸さんは言った。
あたしは。
仕方ないなあというように微笑む。
彼を車椅子に乗せ、中庭を歩いた。
初夏の中庭にはたくさんの患者達が日光を求め集まっている。
「・・・人は何故日光を求めるんだろうね。」
和幸さんは時々難しいことを聞く。
あたしは彼の車椅子を押しながら次の言葉を待った。
「太陽の光で命を繋ぎ、命を産みだす。・・・僕らは皆、太陽の子供みたいなものかな。」
言って。
あたしのお腹に優しく手をあてる。
‘菜月’のお腹には。
新しい命が宿っていた。
「・・・まだ動かないかな。」
あたしは笑う。
「まだ三ヶ月よ。」
わかったばっかり。
「うん。わかってるんだけど・・・」
まだ名残惜しそうに。
和幸さんはあたしのお腹に耳まであてようとしている。
あたしはまた笑った。
あたしは、なるべく笑うようにしていた。
「菜月、愛してるよ。」
「あたしも。愛してるわ。」
あたし達はまるで挨拶のように繰り返した。
和幸さんの容態が急変したのは午後8時を過ぎてすぐだった。
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