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三日目。
こうなることはわかっていた。
必然。
和幸さんは今。
死の淵にいる。
しかも。
深淵を覗く直前に。
この日が来るのを。
‘菜月’は待ち侘びていた。
‘菜月’に家族はいない。
「和幸さん、聞こえる?」
和幸さんは。
今はICUで静かに息をしていた。
酸素マスクがシューシューと音をたてている。
微かに。
ぴくりと彼の瞼が動いた。
あたしは。
それを肯定の意ととる。
彼にはもう聞こえないだろうけど。
「貴方は気付いていたのかな・・・」
あたしは敢えて呟く。
気付いているはずなんかない。
だってこれが‘菜月’の願い・・・
あたしは今‘菜月’で。
見た目も、匂いも、感触さえも‘菜月’で。
でも。
‘菜月’はあたしじゃなかった。
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