わかれ

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高原の町で父と母と一緒に暮らしていて、十六歳で大工として町のとある現場で働き始めた。しかし、同じ時期に大工となった幼馴染みや他の仲間達に何故か冷たくあしらわれ、やがて無視されるようになって、仕舞には仕事も回して貰えなくなり外で木材の上に座り続ける日が続き、給料泥棒と罵られ解雇された。 何が悪かったのかは全くわからない。ひどいことをした覚えもないし、誰かに逆らった覚えもない。ただ精を込めて木に触れ、その切られたての香りを楽しみながら組んでいただけだった。昔から、家族で祖父の家に遊びに行っていた小さな頃から木が好きだったからだ。 でも、もうその現場にも、あの仕事仲間達の中にも戻りたくない。それどころか、もう何処にも行きたくなかった。仲の良かった筈の幼馴染みまでが、僕の知らない人になってしまった。 どうやったって、付いてしまった僕の傷は癒されない。 職を失くし、全てを話した僕に、父は町の外れの大きな家に一人住む祖父の所へ行ってはどうか、と提案した。父は祖父の木彫り職人の仕事がどうしても女々しいと感じられて好きになれなかったからここに来た、と告白したが、まあ今となってはそう思ったことをとても後悔している、なんてことを恥ずかしそうに付け足した。
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