わかれ

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そんなお前はクロヴィス――木彫りの仕事を継がなかった父だ――にそっくりで大好きだよ、と、ある時祖父は優しく言って僕の頭を撫で、抱き締めてくれた。年老いた者とは思えないくらい力強い腕と分厚い胸に、僕が声を上げて泣いたのは言うまでもない。 エルカにようにのびやかで、背が高くて安心感を与えてくれるその人はもういない。 「お前があの家に残りたいなら残ってもいいぞ、デリク」 父は、森のような瞳を僕に向けてそう言った。 僕も正直言って町に戻りたくなかった。しかし、いずれ心の何処かで折り合いをつけてあそこに行かなければならない。今の僕はただ逃げているだけだ。 「うん……でも、もう少ししたら戻るかもしれない」 「無理しなくていいのよ、デリク」 母も、僕を気遣うように言った、帰ろうとする大勢の人々がじろじろとこちらを見ながら去っていく、皆あの小さな町からの客だから、仕事もろくにせずこんな所に住んでいる僕を知っていて視線を向けてくるのだろう。 ……僕は元々悪くないのに。 「大丈夫、無理はしてないから」 努めて明るい声を出し、僕は両親に笑いかけた。大丈夫、きっと少しはましになっているだろう。そう念じながら開けた道の方へ、吹く風を見送って町の方に目をやった。
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